高村光太郎『山林』朗読mp3
私はいま山林にゐる。
生来の離群性はなほりさうもないが、
生活は却って開放された。
村落社会に根をおろして
世界と村落とをやがて結びつける気だ。
強烈な土の魅力は私を捉へ、
撃壌の民のこころを今は知つた。
美は天然にみちみちて
人を養ひ人をすくふ。
こんなに心平らかな日のあることを
私はかつて思はなかつた。
おのれの暗愚をいやほど見たので、
自分の業績のどんな評価をも快く容れ、
自分に鞭する千の非難も素直にきく。
それが社会の約束ならば
よし極刑とても甘受しよう。
詩は自然に生れるし、
彫刻意慾はいよいよ燃えて
古来の大家と日毎に交はる。
無理なあがきは為ようともせず、
しかし休まずじりじり進んで
歩み尽きたらその日が終りだ。
決して他の国でない日本の骨格が
山林には厳として在る。
世界に於けるわれらの国の存在理由も
この骨格に基くだらう。
囲炉裏にはイタヤの枝が燃えてゐる。
炭焼く人と酪農について今日も語つた。
五月雨はふりしきり、
田植のすんだ静かな部落に
カツコウが和音の点々をやつてゐる。
過去も遠く未来も遠い。
高村光太郎は太平洋戦争中「大いなる日に」など積極的な戦意高揚詩を書き、戦後はそのことへの深い自責の念にかられることとなります。
奥州の花巻で七年間の独居自炊生活を送ったのは、そのような己の中の「暗愚」を見つめなおす意図もあったのかもしれません。