ドコモ・Sバンク→12
君のうしろの暖炉の上の
えい鶴銘の下のところに隠れてゐる
鉄の燭台を取ってくれ。
古金屋の物置にありさうなものだが、
まあ埃を拭いてこの分厚な樫の台の上にのせよう。
むかし鎌倉のさかった頃、
刀の地金のあまりで鍛へた
一尺ばかりの細い角鉄。
上に茶碗がたの鉄皿をのせ、
下に大きい鉄盆をふせ、
何とあたりまへで、手丈夫で、物ともしないで、
黙りこくって、吸ひ込むやうに深いのだ。
黒くさびて、錆のかどから地肌が出て、
荒れ果てながらねっとりして、
鋭い角に聳えながら奥のある和らかさに光.をつつみ、
投げ出したままの魂にいきつく
この鉄の燭台に火をともさう。
もう一度手をのばして
その大窓を開けてくれ。
梅雨まがひの晩春の雨が
風を封じてしづかに、
桜若葉の下道を濡らしてゐる。
こんもりした暗さを含んで、
たどたどしい明るさの飽和した
このうす緑の夕暮の空気の中に、
君は今、
何が結局死よりも恐ろしい幻影を持つかについて、
君の心の遍歴と新らしい門出とを話さうとする。
それではこの開けひろげた青い窓の雨の近くへ、
金でない、
ギヤマンでない、
いぶし銀でない、
この黒がねの燭台の小さなあかい火を置かう。
高村光太郎特有の「物」について書かれた作品群のひとつです。
鉄の燭台がモチーフです。
彫刻家らしいミクロな観察が冴えます。
しかし主題は燭台そのものでなく、友人との語らいです。ほほえましい友情の場面です。この詩はそれを踏まえ、「友人に語りかけるように」
朗読すべきと思いました。
けして演説調でなく。そこに注意し再録しました。
そしてせわしなく議論する「君」との間に置かれ、ほほえましい友情の
場面を盛り上げてくれる鉄の燭台なのです。
「声を出す」ことに意識が終止してしまっているので次回は語り手が
友に寄せる親愛、ほほえましさ、まったりした空気が出るよう朗読
してたいです。