高村光太郎『村山槐多』朗読mp3
槐多は下駄でがたがた上つて来た。
又がたがた下駄をぬぐと、
今度はまつ赤な裸足で上つて来た。
風袋のやうな大きな懐からくしやくしやの紙を出した。
黒チョオクの「令嬢と乞食」。
いつでも一ぱい汗をかいてゐる肉塊槐多。
五臓六腑に脳細胞を偏在させた槐多。
強くて悲しい火だるま槐多。
無限に渇したインポテンツ。
「何処にも画かきが居ないぢやないですか、画かきが。」
「居るよ」
「僕は眼がつぶれたら自殺します。」
眼がつぶれなかつた画かきの槐多よ。
自然と人間の饒多の中で野たれ死にした若者槐多よ、槐多よ。
高村光太郎が若い村山槐多を可愛く、同時に危なっかしく思い、
しみじみ回想しているのです。温かい詩です。
村山 槐多(むらやま かいた)1914(大正3)年~1918(大正7)年
大正期の洋画家。
情念がほとばしったような、一種異様な絵を描いた画家です。
酒びたりのデカダン的生活に入り込み結核性肺炎を患い、22歳で夭折。
日本美術院の研究生であった頃、高村光太郎の工房に出入りしていたました
(村山槐多18歳、高村光太郎31歳)。
多分こんな若さのほとばしった芸術談をふっかけてきて、高村光太郎も
ヤレヤレと苦笑しながら、自分の若い頃も重ねたりなどして、
微笑ましく思っていたのではないでしょうか。
細野不二彦『ギャラリーフェイク』の中に村山槐多の絵に関する話がありました。