高村光太郎『画室の夜』朗読mp3

煖炉(ストオブ)の火は消えて
室の四すみよりいつとなく
寒さは電流の如く忍び入る
絹マントルの明るき光は瞬きもせず
物の色より黄を奪へり
乱雑なる画室の様のもの淋しさよ
今もわが頭の中の微笑せる彼の人を思へば
絵具と画布とは児戯に近し
--芸術は唯巧妙なる約束の因襲なりを--
むしろシヤヴンヌの画を嗤つて
一杯の酒に泣かむとす
寒さ烈し
冬の夜の午前二時


かなり生活が乱れている感じです。高村光太郎29歳。自暴自棄のデカダン生活に 没入していった頃の詩です。

寒さが電流のように忍びいるのは、人生的な寒さも表していると思われます。 これからどうなっていくのか、先が全くわからないという。

「絹マントル」はガスマントルともいい、ガス灯の発光部分です。いかにも明治・大正のロマン漂う風物です。

その光がその明るい光が部屋にある黄色いものの色彩をうばい、 白っぽく見せているのです。光太郎の空虚な心情をもあらわしているのでしょう。

そして女性を思っています。「失はれたるモナ・リザ」でも描かれた、 吉原河内楼の若太夫です。現実の女性の素晴らしさの前では芸術なんて、力ないものだと ガックリしているのです。

「--芸術は唯巧妙なる約束の因襲なりを--」当時の形式ばった 頭の固い芸術界への皮肉でしょう。そんなガチガチの世界で何ができるか、と。

シャヴァンヌはピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ。Chavavves(1824-98)。フランスの画家です。 印象派と同時代ながらその作風は独自の路線を行き、抑えた色彩で 宗教的雰囲気の作品を描きました。

ここでは光太郎の「表現したがっているもの」を表現し得た画家の例として 出されているのでしょうか。嫉妬も混じってる気がします。

そのシャヴァンヌをフンと冷笑し、酒をあおる。ヤケクソです。 自暴自棄な感じです。

しかしこの年光太郎は智恵子と出会い、回復への足がかりをつかむのです。

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