高村光太郎『無口な船長』朗読mp3

またひとまはり、
南十字の向こうの方をやつて来るよ。

それはね、
風といふ奴は吹くとなれやぼんぼん吹くさ。

こはかあないよ。
怖いほどあのまあるい世界は人情ぽくないよ。

だからいい、
人間が何ぢやろとわめく魚が居るしな。

そんな馬鹿があるか、
不思議の深秘のといふ膳立はまだ食はん。

ありのまんま、
そいつが押してくるんだ。又押してゆくんだ。

おれの顔か、
寂しくて楽しくてその又上に何だかあるが。
冬だな、
海岸通の屋根から烟が出て人がちらちらして山がまつしろで。

うむ又逢はう、
おいおい、この煙草を持つてゆけよ。


高村光太郎の詩には対話形式がものが結構ありますが、これはあえて 一方の台詞を省略し、「無口な船長」の言葉だけで綴った詩です。

主人公のどんな問いに対して船長はこう答えたのか?そこに想像する 余地を残しているのでしょう。

例えば第四連など、「船長は毎日海の上で寂しくないっスカ?」とでも 聞いたのか。

距離を探りながら、最初は遠慮しつつ一言二言交わす、 そしてじょじょに深いところにつっこんでいく、その会話の流れ、 人と人が仲良くなるプロセスが見事に描かれています。大好きな詩です。

舞台や状況は詳しく示されてませんが、一緒に船に乗って 潮風に吹かれながら、釣り糸でも垂れてるでしょうか。

最後の「この煙草を持ってゆけよ」、実に微笑ましいです。

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