高村光太郎『声』朗読mp3

止せ、止せ
みじんこ生活の都会が何だ
ピアノの鍵盤に腰かけた様な騒音と
固まりついたパレツト面の様な混濁と
その中で泥水を飲みながら
朝と晩に追われて
高ぶった神経に顫へながらも
レツテルを貼つた武具に身を固めて
道を行くその態は何だ
平原に来い
牛が居る
馬が居る
貴様一人や二人の生活には有り余る命の糧が地面から湧いて出る
透きとほつた空気の味を食べてみろ
そして静かに人間の生活といふものを考えろ
すべてを棄てて兎に角石狩の平原に来い

そんな隠退主義に耳をかすな
牛が居て、馬が居たら、どうするのだ
用心しろ
絵に画いた牛や馬は綺麗だが
生きた牛や馬は人間よりも不潔だぞ
命の糧は地面からばかり出るのぢやない
都会の路傍に堆く積んであるのを見ろ
そして人間の生活といふものを考へる前に
まづぢと翫味しようと試みろ

自然に向へ
人間を思ふよりも生きたものを先に思へ
自己の大国に主たれ
悪に背け

汝を生んだのは都会だ
都会が離れられると思ふか
人間は人間の為したことを尊重しろ
自然よりも人口に意味ある事を知れ
悪に面せよ
PARADIS ARTIFICIEL!

馬鹿
自ら害ふものよ

馬鹿
自ら卑しむるものよ

(注)
PARADIS ARTIFICIEL!
人工の楽園よ!の意。ボードレールのエッセイ集から。

高村光太郎は明治44年北海道移住を志し、東京を発って月寒へ向かい、 農商務省研究所を訪ねます。しかしかの地での現実に疲れ果て、移住した 月末には東京に帰ってきます。

その経験がベースとなった詩です。田舎主義者と都会主義者の論争です。高村光太郎にはこういう 論争形式の詩がけっこうあります。ただ、この詩は 双方地に足がついてないというか、書生論な感じがします。

有名な詩
Copyright(C) 高村光太郎 朗読 All Rights Reserved