高村光太郎『パリ』朗読mp3
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私はパリで大人になった。
はじめて異性に触れたのもパリ。
はじめて魂の解放を得たのもパリ。
パリは珍しくもないような顔をして
人類のどんな種族をもうけ入れる。
思考のどんな系譜をも拒まない。
美のどんな異質をも枯らさない。
良も不良も新も旧も低いも高いも、
凡そ人間の範疇にあるものは同居させ、
必然な事物の自浄作用にあとはまかせる。
パリの魅力は人をつかむ。
人はパリで息がつける。

近代はパリで起り、
美はパリで醇熟し萌芽し、
頭脳の新細胞はパリで生れる。
フランスがフランスを越えて存在する
この底なしの世界の都の一隅にいて、
私は時に国籍を忘れた。
故郷は遠く小さくけちくさく、
うるさい田舎のやうだつた。
私はパリではじめて彫刻を悟り、
詩の真実に開眼され、
そこの庶民の一人一人に
文化のいはれをみてとつた。
悲しい思で是非もなく、
比べようもない落差を感じた。
日本の事物国柄の一切を
なつかしみながら否定した。


高村光太郎は、1906(明治39)、24歳の時彫刻修行のために渡欧します。
この時代に海外に出た若者に共通する感激と、拭いきれない劣等感が 技巧を廃した素直な言葉で綴られています。

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