高村光太郎『典型』朗読mp3
ドコモ・Sバンク→12
ドコモ・Sバンク→12
今日も愚直な雪がふり
小屋はつんぼのやうに黙りこむ。
小屋にいるのは一つの典型、
一つの愚劣の典型だ。
三代を貫く特殊国の
特殊の倫理に鍛へられて、
内に反逆の鷲の翼を抱きながら
いたましい強引の爪をといで
みづから風切の自力をへし折り、
六十年の鉄の網に蓋はれて、
端坐粛服、
まことをつくして唯一つの倫理に生きた
降りやまぬ雪のやうに愚直な生きもの。
今放たれて翼を伸ばし、
かなしいおのれの真実を見て、
三列の羽さへ失ひ、
眼に暗緑の盲点をちらつかせ、
四方の壁の崩れた廃嘘に
それでも静かに息をして
ただ前方の広漠に向ふといふ
さういふ一つの愚劣の典型。
典型を容れる山の小屋、
小屋を埋める愚直な雪、
雪は降らねばならぬやうに降り、
一切をかぶせて降りにふる。
高村光太郎は最愛の妻・智恵子を失った空虚感の中、太平洋戦争中は戦気高揚の国策詩を書いていました。
戦争によって自分を見失っていた反省と苦悩の中から
戦後は新しい生き方の「典型」を探そうと必死だったようです。
やや遠くから録音したのでかなり部屋鳴りとか暖房の音とか拾ってます。
部屋鳴りは毛布をたらして吸収するのがいいんですが、めんどくさいので
たいがいやらないのです…。